「フレンチブルドッグは、片親をブリンドルにしないといけない」——フレンチブルドッグをお迎えしようと調べていると、一度は目にする話ではないでしょうか。私も前回の記事に書いた通り、この説を知っていたからこそ、ペットショップで両親犬の毛色を確認しようとしました。
でも、それって本当なのでしょうか。気になって調べていくうちに、私は思っていたのとはまったく違う結論にたどり着きました。
先に言ってしまうと、「よく語られている理由」は間違っていて、それでも「結論」は正しかった——そんな不思議な着地でした。順番に見ていきます。
そもそも、どんな説なのか
日本のフレンチブルドッグ界隈でよく言われているのは、次のような内容です。
健康的なフレンチブルドッグを繁殖させるためには、両親犬のどちらか一方がブリンドルである方がよい。お迎えするときは、血統書で両親犬の毛色をチェックしておくとよい。
ブリーダーのサイトや飼い主のブログでも見かける、かなり広く知られた考え方です。私もこれを読んでいたので、ペットショップで両親の毛色を尋ねたのでした。
よく語られる理由:「色素が薄くなるから」
この説の根拠として一般的に語られるのが、「クリームやフォーンなど淡い色ばかりを掛け合わせると、世代を経るごとに色素が薄くなり、身体が弱くなる」という説明です。
だからこそ、色の濃いブリンドルを片親に入れて、色素を保つ必要がある——という理屈ですね。
直感的には分かりやすい説明です。ただ、遺伝学の観点から調べていくと、話が変わってきました。
ところが、この理由は遺伝学的には否定されていた
犬の毛色遺伝を専門的に扱っている情報サイトによれば、「淡い毛色同士を掛け合わせると色素が薄くなっていく」という説明は、遺伝学的には成立しないとされています。
整理すると、次のような内容でした。
- クリームやフォーン、パイドばかりを掛け合わせても、突然変異などを除けば色素が薄くなることはない
- 鼻や肉球などの色が薄い個体が生まれるのは、クリーム同士を交配したからではなく、希釈遺伝子を持つ犬(ブルー、イザベラ、ライラックなど)を交配した場合である
- 「クリームは身体が弱い」という説についても、明確な根拠を示す研究は見つからず、他の犬種ではそうした説はほとんど聞かれない
つまり、この説を支える「よく語られる理由」の方は、根拠が薄いということになります。
ここまで読むと「じゃあ、この説は迷信なの?」と思いますよね。私もそう思いました。ところが、話には続きがあります。
それでも、この説には「別の理由」で一理あった
調べていて一番驚いたのが、ここでした。
同じ情報サイトによれば、この「片親をブリンドルに」というルールには、色素とはまったく別の意味で合理性があると指摘されています。それは——
近親交配を防ぐことにつながるから。
どういうことか、順を追って説明します。
ブリンドル以外の毛色は「高く売れる」
日本で最も頭数が多いフレンチブルドッグの毛色はブリンドルです。一方で、クリームやパイドといった他の毛色は人気があり、価格も高くなる傾向があります。
そのため、ブリーダーによってはあえてブリンドルを掛けないことで、人気の毛色が生まれる確率を高めようとすることがあります。
すると、遺伝子のプールが狭くなる
ここで問題が起きます。元々頭数が少ない毛色であればあるほど、その毛色同士で交配を重ねると近親交配になる確率が上がってしまうのです。
近親交配が進むと、そのラインが持っていた遺伝性疾患が発現しやすくなったり、身体が弱くなったりすることがあります。
つまり、こういうことだった
「片親をブリンドルに」というルールは、毛色そのものが健康を左右するという話ではなく、頭数の多いブリンドルを入れることで遺伝子の多様性を保ち、結果的に近親交配を避けるための目安として機能している——ということのようです。
理由の説明としては間違っていたけれど、結論としては理にかなっていた。調べてみて、こういう結末になるとは思っていませんでした。
一方で、本当に注意が必要とされているのは「白の面積」
毛色に関連してもう一つ、こちらは実際にリスクが指摘されている話があります。
白い斑(ぶち)の面積が大きい個体は、難聴の可能性が高まるという点です。これはフレンチブルドッグに限った話ではなく、ダルメシアンやブルテリアなど、身体の大部分が白い犬種に共通して知られていることだそうです。
実際、犬種標準の解説でも、白が極端に多いパイドは遺伝病が出やすい傾向があるため、繁殖に使うことは認められていないとされています。
ここで大事なのは、これはクリームやフォーンのような「色の薄さ」とは別の話だという点です。白斑を作る遺伝子による現象であり、淡い毛色そのものが原因ではありません。同じ「白っぽい」でも、意味がまったく違うということですね。
結局、ブリーダー選びでは何を確認すればいいのか
ここまでを踏まえると、「片親がブリンドルかどうか」だけをチェックリストのように確認しても、あまり意味がないということになります。大事なのは、その裏側にある「遺伝子の多様性が保たれているか」の方だからです。
だとすれば、ブリーダーさんに確認したいのは、もう少し踏み込んだ内容になります。
- 両親犬の血統に、近親交配を避ける配慮がされているか
- 遺伝性疾患の検査を行っているか、その結果を見せてもらえるか
- 両親犬に実際に会えるか、健康状態を確認できるか
- 白斑の大きい個体同士を掛け合わせていないか
- どういう繁殖方針で、何を大切にしているか
毛色は「入り口」にすぎず、本当に見るべきなのはその奥にある繁殖の考え方なのだと思います。
そしてこれは、ペットショップでは事前に確認できなかった部分でもあります。私がブリーダー比較という切り口でこのサイトを作っているのは、まさにここに理由があります。
まとめ
- 「片親はブリンドルに」という説は、日本で広く知られている
- ただし「色素が薄くなるから」という一般的な説明は、遺伝学的には根拠が薄い
- 一方で、近親交配を防ぐ目安としては合理性がある
- 本当に注意が必要とされているのは、白斑の面積が大きい個体の繁殖
- 毛色そのものより、繁殖方針や健康検査の有無を確認する方が実質的
「言われていること」をそのまま鵜呑みにせず、なぜそう言われているのかまで調べてみると、見え方が変わってくる。今回はそれを実感した調べものでした。
参考文献・出典
本記事の犬種標準とマール遺伝子に関する記述は、以下の資料を参照しています。
- 一般社団法人ジャパンケネルクラブ「フレンチ・ブルドッグ」犬種標準
認められる毛色の範囲、鼻の色に関する規定、ホワイト一色の個体と難聴のリスクについての記載があります。 - Official Standard of the French Bulldog(American Kennel Club・PDF)
ブルー、ブルーフォーン、リバー、マールなどが失格の毛色として明記されています。 - Strain GM, et al. Prevalence of deafness in dogs heterozygous or homozygous for the merle allele. J Vet Intern Med. 2009
マール犬153頭の聴力を検査した研究。マール遺伝子を1つ持つか2つ持つかで、難聴の割合に有意な差があったとされています。
毛色と健康に関する出典は、下記の記事にさらに詳しくまとめています。
リンク先の内容は変更される場合があります。最終確認日:2026年8月20日。