フレンチブルドッグをお迎えしようと調べ始めると、必ずぶつかるのが「高い」という現実です。20万円台の子もいれば、50万円を超える子もいる。他の犬種と比べても、決して安い犬種ではありません。
毛色や血統によって価格が変わることは別記事で書きましたが、そもそもフレンチブルドッグ全体の価格が高めに設定されているのには、この犬種ならではの理由があります。
調べてみると、それは「出産事情」に行き着きました。
理由1:自然交配が、ほぼできない
最初に驚いたのがこれです。
フレンチブルドッグをはじめとする短頭種は、体型的にうまく交尾ができず、自然交配による妊娠はまず不可能とされています。オスは脚が短く胴の形状も特殊なため、メスへのマウントが難しいのです。
そのため、繁殖には人工授精が用いられることがほとんどです。
人工授精は、ただ精液を注入すればいいというものではありません。事前の検査、排卵の正確な予測が必要で、専門的な器具と技術が求められます。獣医師の管理のもとで行うのが一般的で、当然ながら費用が発生します。
つまり、フレンチブルドッグはスタートラインの時点で、すでに獣医療のコストがかかっているということです。
理由2:8割以上が帝王切開
次が、この犬種を語るうえで避けて通れない話です。
フレンチブルドッグの子犬は頭部がとても大きく、母犬の骨盤腔をスムーズに通過することができません。無理に自然分娩をしようとすると、母犬の苦痛が長時間に及ぶうえ、お腹の中の子犬も体力を消耗し、危険が高まります。
そのため、フレンチブルドッグやブルドッグは8割以上が帝王切開で出産しているというデータもあります。「自然分娩ができない犬種」と言われることもあるほどです。
帝王切開の費用は、出産にかかった時間や病院によって異なりますが、一般的には10万円弱程度までとされています。しかも計画的に行うため、事前の相談や検査も必要です。
1回の出産に、これだけのコストがかかっているわけですね。
理由3:法律で、生後57日まで育てる必要がある
意外と見落とされがちなのがこれです。
動物愛護管理法により、販売できる子犬は生後57日齢以上と定められています。8週齢まで母犬や兄弟犬と過ごすことで社会性が育ち、母犬からの免疫で感染症のリスクが下がるためです。
つまりブリーダーは、生まれてから約2か月間、子犬を育てる期間のコストを負担しています。フードはもちろん、ワクチン接種、健康診断、日々の世話の人件費まで含まれます。
だから「安すぎる」には、理由を確認したい
ここまでの3つを合わせると、フレンチブルドッグの価格が他犬種より高めになるのは、ある程度必然だということが見えてきます。
| 工程 | フレンチブルドッグの場合 |
|---|---|
| 交配 | 人工授精が必要(検査・排卵予測・獣医師の管理) |
| 出産 | 8割以上が帝王切開(10万円弱程度まで) |
| 子犬の育成 | 生後57日まで育てる必要がある(法律) |
もちろん、安い=悪いと決めつけることはできません。人気の低い毛色だったり、月齢が進んでいたりと、正当な理由で価格が下がることもあります。
ただ、相場から大きく外れて安い場合は、その理由を確認してみるのは大切だと思います。どこかの工程でコストを削っている可能性があるからです。
価格の裏側にあるのは、母犬の負担でもある
ここまでは「お金」の話をしてきましたが、調べていくうちに、もう一つ考えさせられることがありました。
フレンチブルドッグの出産が帝王切開だということは、母犬は出産のたびに開腹手術を受けているということです。
日本には、帝王切開の回数制限がない
2021年に施行された数値規制では、メス犬の生涯出産回数は6回までと定められました。ただし、この議論の際に検討された帝王切開の回数制限は、結果的に見送られています。
フレンチブルドッグに当てはめると、制度上は生涯で6回の開腹手術が可能ということになります。
イギリスでは「2回まで」
参考までに、イギリスのケネルクラブは2012年から、すでに2回の帝王切開を経験した母犬から生まれた子犬の登録を、原則として受け付けていません。出産回数の上限も6回から4回に引き下げられています。
この方針は、王立獣医外科大学(RCVS)や英国獣医師会などとの協議を経て決まったものです。
| 日本 | イギリス(KC) | |
|---|---|---|
| 生涯出産回数 | 6回まで | 4回まで |
| 帝王切開の回数 | 制限なし | 2回まで |
日本にも、帝王切開を行った場合は獣医師から母体の状態と今後の繁殖の適否に関する診断書の交付を受け、5年間保存するという義務があります。回数で一律に線を引くのではなく、獣医師の判断に委ねる仕組みですね。
どちらの考え方が正しいという話ではありませんが、日本の法律を守っていても、国際基準から見ると母犬への負担が大きい繁殖が制度上は可能だということは、知っておいて損はないと思います。
価格の見方が、少し変わりました
正直に言うと、私も最初は「フレンチブルドッグって高いなあ」としか思っていませんでした。
でも調べてみると、その価格には人工授精の費用、帝王切開の手術費用、2か月間の育成コストが乗っていて、さらにその奥には母犬が負っている身体的な負担がある。
そう考えると、価格の数字だけを比べて「こっちの方が安いから」と選ぶのは、少しもったいない気がしてきます。
同じ40万円でも、母犬を大切にしながら丁寧に繁殖しているところと、そうでないところがある。その差は値札には書かれていません。
だからこそ、ブリーダーさんに直接会って、話を聞くことに意味があるのだと思います。何を聞けばいいのかについては、こちらの記事で詳しくまとめています。
参考にした情報
- ペトラ「帝王切開が当たり前の犬種? 短頭種の出産と健康リスク」
- フレブルパーク「フレンチブルドッグの出産と準備」「交配と妊娠」
- 狭山動物医療センター白石動物病院「繁殖診療科のご案内」
- The Kennel Club(英国)「Welfare Standard for Adult Dogs and Puppies」
- 環境省・各自治体による改正動物愛護管理法の解説