「優良ブリーダーから迎えましょう」——ブリーダー選びを調べていると、必ず目にする言葉です。でも、いざ探し始めると困ります。そもそも「優良」って、誰がどう決めているのでしょうか?
ネット上のチェックリストを見ると、「犬舎が清潔か」「対応が親切か」といった項目が並んでいます。もちろん大事なのですが、正直なところ初めてブリーダーを訪ねる人には判断が難しいですよね。何と比べて清潔なのか、どこまで説明してくれれば十分なのか、基準がありません。
そこで今回は、法律で決まっている「最低ライン」から整理してみます。感覚ではなく、明確な基準で確認できるポイントがいくつもありました。
大前提:ブリーダーは法律で規制されている
意外と知られていないのですが、犬を繁殖・販売するブリーダーは、動物愛護管理法(動物の愛護及び管理に関する法律)によってかなり細かく規制されています。
2019年の法改正で規制が大きく強化され、2021年から2022年にかけて段階的に施行されました。「数値規制」と呼ばれる、具体的な数字での基準が初めて導入されたのがこのときです。
つまり、これらを守っていない時点で、優良かどうか以前の問題ということになります。まずはここから確認していきましょう。
チェック1:見学できないブリーダーは、法律的に不自然
これが今回、調べていて一番「知っておいてよかった」と思ったポイントです。
動物愛護管理法では、ブリーダーなどの第一種動物取扱業者が動物を販売する場合、購入者に対して動物の現在の状態を直接見せる(現物確認)とともに、飼養方法や生年月日など18項目を対面で説明する(対面説明)ことが義務付けられています。
さらに2019年の法改正により、この現物確認・対面説明は「ブリーダーの事業所で行うこと」が義務付けられました。購入者はブリーダーの事業所まで必ず訪問して、説明を受ける必要があるということです。
ここから導かれる結論はシンプルです。
「見学はお断りしています」「こちらから子犬をお届けします」といった対応は、法律上、本来あってはならないものです。
これは好意やサービスの問題ではなく、義務だということですね。見学できない理由を説明されたとしても、その時点で候補から外すのが安全だと思います。
チェック2:生後57日を過ぎているか
いわゆる8週齢規制です。現在、販売できる子犬は生後57日齢以上に限られています(生まれた日を0日齢として計算)。
これは、8週齢まで母犬や兄弟犬と一緒に過ごすことで、成長後の問題行動を予防(社会性の習得)し、母犬からの免疫を高めて感染症を減らす効果が認められているためです。
例外として、天然記念物である日本犬6種(柴犬・紀州犬・四国犬・甲斐犬・北海道犬・秋田犬)については、一定の条件を満たす場合に限り50日齢以上で販売が可能とされています。フレンチブルドッグは対象外なので、57日齢のラインで判断して問題ありません。
「まだ小さくてかわいいうちに」という気持ちは分かりますが、極端に早い引き渡しを提案してくるブリーダーには注意が必要です。
チェック3:母犬の繁殖回数・年齢に上限がある
2022年6月から適用されている規制です。
| 項目 | 上限 |
|---|---|
| メス犬の生涯出産回数 | 6回まで |
| 交配時の年齢 | 6歳以下(※) |
※7歳に達した時点で、生涯出産回数が6回未満であることを証明できる場合は、交配時の年齢は7歳以下となります。
この規制の目的は、むやみに繁殖させることによる母体への過度な負担を避けることです。
見学の際に「母犬は何回目の出産ですか?」「今何歳ですか?」と聞いてみるのは、決して失礼な質問ではありません。むしろ、この質問に淀みなく答えられるかどうかが、繁殖記録をきちんとつけているかの判断材料になります。
フレンチブルドッグならではの視点:帝王切開は何回目か
ここからは、フレンチブルドッグを迎える人にこそ知っておいてほしい話です。
フレンチブルドッグは、ほとんどが帝王切開
フレンチブルドッグの子犬は頭部が大きく、母犬の骨盤腔をスムーズに通過することができません。そのため8割以上が帝王切開で出産しているというデータもあり、「自然分娩ができない犬種」と言われることもあります。
つまり、先ほどの「生涯出産回数6回まで」という基準をフレンチブルドッグに当てはめると、母犬は生涯で6回、開腹手術を受ける可能性があるということになります。
実は、日本の法律には帝王切開の回数制限がない
2021年の数値規制の議論では、帝王切開の回数制限についても検討されました。しかし、結果的にこの規定は見送られ、法律には盛り込まれませんでした。
代わりに義務付けられたのが、前述の診断書です。帝王切開を行う場合は獣医師が実施し、出生証明書とあわせて母体の状態および今後の繁殖の適否に関する診断書の交付を受け、5年間保存しなければならないとされています。
つまり日本では、回数で線を引くのではなく、「その子の状態を見て、獣医師が次の繁殖の可否を判断する」という仕組みになっているわけです。
一方、イギリスでは「2回まで」と明確に決まっている
ここで参考になるのが、イギリスのケネルクラブ(The Kennel Club)の基準です。
同クラブは2012年から、すでに2回の帝王切開を経験した母犬から生まれた子犬は、原則として登録を受け付けないという方針を採用しています。これは3回目が自然分娩であっても同様です。あわせて、1頭の母犬から登録できる出産回数も6回から4回に引き下げられました。
この決定は、王立獣医外科大学(RCVS)、英国獣医師会(BVA)などの獣医療団体との協議を経て行われたものです。当時のRCVS会長は、「将来的には帝王切開1回のみに制限してほしい」とまで述べています。
さらに、イギリスの獣医師は登録犬に帝王切開を実施した場合、それをケネルクラブに報告するよう求められています。回数が正確に把握される仕組みになっているのです。
だから、この質問には意味がある
整理すると、こういうことになります。
| 日本 | イギリス(KC) | |
|---|---|---|
| 生涯出産回数 | 6回まで | 4回まで |
| 帝王切開の回数 | 制限なし | 2回まで |
| 母犬の年齢 | 交配時6歳以下 | 8歳未満 |
日本の法律を守っていても、国際的な基準から見ると母犬への負担が大きい繁殖が、制度上は可能だということです。
だからこそ、フレンチブルドッグのブリーダーを選ぶときには、法律の最低ラインより一歩踏み込んだ質問に意味があります。
- 母犬は帝王切開を何回経験していますか?
- 帝王切開のあと、獣医師から次の繁殖についてどんな助言を受けましたか?
- 1頭の母犬から、何回まで出産させる方針ですか?
特に2つ目は効果的です。その診断書は、法律上ブリーダーが保管しているはずのものだからです。この質問にきちんと答えられるかどうかは、記録の管理状況を知る手がかりになります。
ただし、「3回以上=悪質」と機械的に決めつけるのは避けたいとも思います。帝王切開が母体に与える負担は個体差が大きく、日本の制度では獣医師の判断に委ねられているためです。回数そのものより、母犬の状態をどう見ているか、獣医師の助言をどう受け止めているかを聞く方が、そのブリーダーの姿勢が見えてくるはずです。
チェック4:獣医師との連携があるか
これも法律で定められている項目です。
- 1年以上飼養する犬には、年1回以上、獣医師による健康診断を受けさせることが義務
- 獣医師が繁殖に適さないと判断した場合、交配は禁止
- 帝王切開は獣医師が行い、出生証明書と母体の状態・今後の繁殖の適否に関する診断書の交付を受け、5年間保存することが必要
「かかりつけの動物病院はどちらですか?」という質問は、こうした体制が整っているかを知る手がかりになります。
チェック5:飼育設備の基準
数値規制では、ケージの大きさについても具体的な基準が定められています。寝床・休息場所となるケージについては、タテが体長の2倍、ヨコが体長の1.5倍、高さが体高の2倍以上が基準です。運動スペースを別に設ける場合は、ケージ床面積の6倍以上が必要とされています。
また、ケージ床への金網の使用は禁止されました。サビや割れなどの破損がある状態での使用も禁止されています。
見学時にメジャーで測る必要はありませんが、「明らかに身体の向きを変えるのがやっとの狭さ」「床が金網」という状態であれば、それは基準を満たしていない可能性があります。
チェック6:登録番号を掲示しているか
第一種動物取扱業を営む者は、事業所・業種ごとに都道府県知事または政令指定都市の長の登録を受けなければなりません。
登録を受けた業者は、事業所に標識(登録番号・登録年月日・有効期限・動物取扱責任者名など)を掲示する義務があります。ウェブサイトを持っているブリーダーであれば、そこに記載されていることも多いです。
まずはサイトで登録番号が公開されているかを確認する——これが、問い合わせる前にできる最初のふるい分けになります。
ここから先は「感覚」で確認する部分
法律の基準をクリアしていることが分かったら、あとは相性や誠実さの部分です。ここは数値化できないので、見学時の観察と質問が頼りになります。
見学時に見ておきたいこと
- 犬舎の換気ができていて、においがこもっていないか
- 犬たちの被毛や目に、健康的な状態が見られるか
- 親犬に会わせてもらえるか、その様子はどうか
- 子犬だけでなく、繁殖犬たちも大切に扱われているか
質問への答え方で分かること
- 健康診断やワクチン接種の記録を見せてもらえるか
- 遺伝性疾患の検査をしているか、その結果を開示できるか
- 親犬の性格や健康状態について、誠実に説明できるか
- デメリットや注意点も含めて話してくれるか
契約の場面で注意したいこと
- 契約内容が口頭だけで済まされていないか(書面があるか)
- 「返金条件」「病気の補償」「譲渡後のサポート」が明記されているか
- その場で契約を迫られていないか、冷静に判断する時間をくれるか
最後の項目は特に大切だと思います。考える時間をくれるかどうかは、相手の誠実さのバロメーターです。
逆に、これだけでは判断できないこと
公平を期すために、書いておきたいことがあります。
価格が安い=悪質、とは限りません。もちろん相場より極端に安い場合は理由を確認した方がいいですが、単に人気の低い毛色だったり、成長して月齢が進んでいたりするだけのこともあります。
規模が大きい=悪質、でもありません。従業員をきちんと確保して、基準を守って運営している事業者もいます。逆に、小規模でも管理が行き届いていないところはあります。
一つの項目だけで決めつけず、複数の要素を合わせて判断することが大切だと思います。
まとめ:チェックリスト
| 確認項目 | 判断の目安 |
|---|---|
| 事業所での見学 | できないのは法律上不自然 |
| 子犬の日齢 | 生後57日齢以上か |
| 母犬の出産回数・年齢 | 6回まで/交配時6歳以下 |
| 帝王切開の回数(フレブル特有) | 日本は制限なし。方針を確認したい |
| 獣医師との連携 | 年1回の健康診断があるか |
| 飼育設備 | 金網床でないか、十分な広さか |
| 登録番号 | 掲示・公開されているか |
| 書類の開示 | 健康記録・検査結果を見せてもらえるか |
| 契約内容 | 書面があるか、考える時間をくれるか |
「優良ブリーダー」という言葉は曖昧ですが、法律の基準という共通のものさしを持っておけば、少なくとも最低ラインの判断はできます。
そのうえで、親犬への向き合い方や、お迎え後の関係の作り方といった部分で、自分たちに合うブリーダーさんを選べたら理想的だと思います。
参考にした情報
- 環境省「第一種動物取扱業者の規制」
- 環境省「動物の愛護及び管理に関する法律が改正されました〈動物取扱業者編〉」
- ジャパンケネルクラブ「牝犬の生涯出産回数・交配年齢に関する規制」
- 東京都・静岡市・福島県 各自治体による改正動物愛護管理法の解説
- みんなのブリーダー「対面説明・現物確認について」
- The Kennel Club(英国)「Welfare Standard for Adult Dogs and Puppies」
- ペトラ「帝王切開が当たり前の犬種? 短頭種の出産と健康リスク」